天野千尋監督による俳優のための実践的ワークショップ

(本ワークショップはすでに終了しています)

2月、新宿三丁目の中華料理屋で飯を食っていた。ワークショップを充実したものとするため、複数のプロデューサーたちに協力を仰ぎ、その流れで、その店に入った。それっぽい人たちがちらほらといる。映画関係者が良く来る店、なのかもしれない。しばらくすると、大きな声の男がふたり入ってきた。その一人は、特異な風貌の、山本政志監督だった。隣のテーブルに座った彼はこちらに気づくことなく話し続けている。切れ間を狙って挨拶をした。「ご無沙汰してます」僕に気づき、政志さんは大きな声を上げた。「お!ライバル会社!ライバル会社!」
 
たしかに、ライバル。僕は「4人の映画監督による俳優のための実践的ワークショップ」というダサい名前のワークショップをやっており、政志さんは「シネマ☆インパクト」という名の、その名のとおり、映画界に激震を走らせたインパクトあるワークショップを主宰している。

しかし、政志さんと僕の立ち位置は大きく異なっている。僕は劇団主宰ということから、有能な、だがまだ無名の、しかし映画に出たいと考えている、小劇場の俳優たちをナントカ映画につなごうとしてワークショップを始めた。一方、政志さんは、『闇のカーニバル』『ロビンソンの庭』など、トガリまくった自主映画を監督製作し、日本映画界の横っ腹に風穴を開けた革命児だ。ワークショップも、弱々しい理想のためではなく、尖った映画を作るためのツールとして位置付けている。

政志さんがシネマ☆インパクトを始める寸前、大森立嗣監督の紹介で僕のところにやってきた。「ワークショップを始めるから、お前の持ってる参加者名簿を俺にくれ」その当然という態度に反発し、僕は協力をしなかった。

監督人脈を使い、自主映画を制作していた経験を生かし、なんとしてもトガッタ映画を作ると政志さんが編み出したワークショップ「シネマ☆インパクト」は、大ヒットした大根仁監督の「恋の渦」や、ベルリン国際映画祭に選出された政志さん自身の監督作品「水の声を聞く」をはじめ、13人のロックな監督たちによる短編長編狂った15の傑作を生みだした。結果を出した。その襲い来る嵐のようなインパクトは激しく、僕が俳優名簿を貸し出すまでもなく、出演に飢えた俳優、本物に餓えた俳優たちを吸い寄せ、日本映画界の新たな震源地になった。

それはやっぱり凄いことだと思わざるを得なかった。

そういう事実に対して「ライバル会社」としては、やはり負けた感があった。いや、もちろん、映画を作らないワークショップに意味がないとは思わない。それどころか、僕の主宰するワークショップには、映画製作の現場に勝るとも劣らない濃密な時間が流れているという自負もある。そこで俳優は確実に成長したり、何かをつかんだり、あるいは未来を諦めたりして行ってくれている。ちゃんとした、意味のある場所だという客観的な確証がある。

でも、しかしそれでも、やはり、僕は「実体」が欲しかった。

折しも、2015年は、キネマ旬報ベスト・テンで第1位となった橋口亮輔監督作品「恋人たち」、ロカルノ国際映画祭で演技素人の主演女優たちが最優秀女優賞を受賞した濱口竜介監督作品「ハッピーアワー」など、ワークショップを母体にした傑作映画が花を咲かせた年だった。前年に作られた政志さんの「水の声を聞く」、その前年の大根仁監督の「恋の渦」などのことを考えると、明らかにワークショップ映画が元気に胎動をし始めていた。そこに何かがあると思わざるを得なかった。それがナンナノカ。考えると、思い当たったのは、映画を作る金の性質が違うということだった。「一般映画」は「映画をお金儲けとしてとらえる人たちの金」によって作られているため、巨額資金が集まる一方で、映画を愛さない声、ビジネスの声を聞かねばならないことも出てきがちで、それは純粋に映画を作りたいと思っている作り手の思いを歪めてしまうことが多いと思われる。それにくらべて「ワークショップ映画」は、「ワークショップに参加した人たちの金、すなわち映画を愛する人たちの金」だけで作られているため、集まる額は少額にすぎない一方で、映画以外のことを考える声に出会わないで済むというか、何物にも汚されないというか、映画を作りたい作り手の思いを歪めることなく映画を作れるわけで、つまり、「ワークショップ映画」は「一般映画」に比べて、「純度の高い映画」になるのであって、だからこそ、映画祭など、映画を映画として愛する場所で評価される映画になりやすい。

それに気づいたとき、僕の「実体」が欲しい病、シネマ☆インパクトをうらやましいと思う気持ちがピークに達し、僕はシネマ☆インパクトの事務所を訪ねていた。政志さんに会うなり思いを告げた。僕もワークショップで映画を撮ろうと思います。ライバルだけどライバルじゃない。映画を作ること。俳優たちの活躍する場所をもっと作りたいということ。面白くてすごい日本映画を増やしたいということ。僕らはライバルなんかではなくて同志であるということ。政志さんは同意してくれた。いろんな意味で協力し合おう。一緒に何か面白いことをしましょう。そんな流れになったのが3月。

で、ワークショップの名前を「アクターズ・ヴィジョン」と変えた。協力してくれているプロデューサーたちに映画が撮りたいと告げた。そして、ようやくというか、ついにというか、今回、映画を作りることになった。ワークショップ映画。映画に愛のある人たちのお金で作る映画。なので一般映画ではなかなか見れない物を作らないと意味がない。金をかけられない。でも深く。だから人間を深く追及するしかない。そんな映画を作ります。そんな映画に出たい人。人間ってこうなんだって、うそつくな、このやろうって人、暴きたい人、本当をむき出しにしたい人、嘘くさい日常をぶっこわしたい人、馬鹿どもをぶっ殺したい人、まっとうな人を助けたい人、汚れちまった悲しみに泣きたい人、映画を愛する人、ぜひ参加してください。

監督は、天野千尋監督です。チャーミングです。うまい監督です(ご本人はご自分のことを職人と言っておられましたが)。今回はハメを外してもらおうと思っています。僕はどんな映画も小説も、それを書く作家本人をさらさねば、傑作にはならないと思っています(映画の場合は、俳優にも自分をさらしてもらわないとなりません)。お子さんが生まれたばかりの天野さんは、そんな映画を作るんじゃないかと思います。きっと女性映画になると思います。男が出ないということではないです。視点が女性視点になる。女性の撮る映画になる。どんな話になるかは参加してくれるみんなが何をさらけ出してくれるか、にかかっています。僕らでなければ作れなかった映画をつくらないと意味がない。

ちなみに、こんな風に書いてるけど、今回映画とるのはシネマ☆インパクトとは直接は関係はありません。協力してもらってるわけではありません。ただ、僕の思いの中には政志さんのやってることへの思いがあるということです。それと、映画を愛する人以外からもお金を集める「一般映画」を馬鹿にしているわけではありません。予算がでかくないと作れない映画はあって、それはワークショップなんかで作っている場合じゃないし、出資者たちの横やりがバンバン飛んでくる資本主義経済の中で、志を歪めず傑作を撮られている監督たちも多く、プロっていうのはそういう人たちのことだと思うわけですが、資本主義に対するアンチテーゼとして、たまにはワークショップ映画みたいなギュッとした場所、目を覚まさせる場所があってもいいんじゃないかと思っている、ということです。それから、この文章長ったらしいですね。ワークショップの告知文とは思えないですね。映画とります、集まれ、だけでも良かったんですけどね。なんかこんなのになってしまいました。

(アクターズ・ヴィジョン代表:松枝佳紀)

講師プロフィール

天野千尋(Amano Chihiro)

1982年生まれ。
5年の会社勤務を経て、映画制作を開始。
ぴあフィルムフェスティバルを始め、多数の映画祭への入選・入賞を経て商業デビュー。 手掛ける作品の数々が各所の映画祭で受賞をしており、今後の活躍が期待される女性監督のひとりである。 2015年に出産し新米母さんデビュー。

<<主たる天野千尋監督作品>>
『さよならマフラー』(2009)
  ・シネアスト・オーガニゼーション・大阪エキシビジョン(CO2)
    NEXT COMER入選
『賽ヲナゲロ』(2009)
  ・ぴあフィルムフェスティバル入選
『チョッキン堪忍袋』(2011)
  ・田辺・弁慶映画祭グランプリ受賞
  ・ぴあフィルムフェスティバル入選
  ・札幌国際短編映画祭オフシアター部門入選
  ・TAMA NEW WAVE入選
『フィガロの告白』(2012)
  ・したまちコメディ映画祭グランプリと観客賞をW受賞
  ・あいち国際女性映画祭準ブランプリ受賞
  ・小津安二郎記念・蓼科高原映画祭準グランプリ受賞
  ・札幌国際短編映画祭オフシアター部門、下北沢映画祭、
   ふかや映画祭のそれぞれで入選
『恋はパレードのように』(2012)
  ・MOOSIC LAB東京編で審査員特別賞を受賞
  ・MOOSIC LAB福岡編ではグランプリを受賞
『ガマゴリ・ネバーアイランド』(2012)
  ・氷見絆国際映画祭最優秀短編作品賞受賞
『どうしても触れたくない』(2013)
  ・予告編 → ■
『放課後ロスト/第1話:リトル・トリップ』(2013)
  ・予告編 → ■
『うるう年の少女』(2014)
  ・サンフランシスコインディペンデント映画祭入選
  ・チリ女性映画祭インターナショナルコンペティション入選
『10日間で運命の恋人をみつける方法』(2014)平愛梨主演
  ・dTVで配信、全六話
  ・第一話はYOUTUBEで見れます→ ■
『ハッピーランディング』(2015)中村ゆり主演
  ・角川シネマ新宿ほか全国で公開

ワークショップ概要
【日程】 2016年7月14日(木)~17日(日)
 
【クラス】 昼クラス13:00-16:00、 夜クラス18:00-21:00
 
【場所】 都内
 
【参加条件】
 ・アクターズ・ヴィジョン制作映画第一弾「タイトル未定」(監督:天野千尋)に出演を希望する者
 ・7月14日からの4日間通して同じクラスを受講できる者
 ・応募者全員が参加できるわけではありません。書類選考します。

【締め切り】 定員となり次第締め切ります。
 
【ワークショップ内容】
 天野千尋監督で長編映画を撮ります。
 現時点では、内容もキャストも決まっていません。
 通常映画として劇場での公開を予定しています。
 その前に、どっかの映画祭に出品するかもしれません。
 メイン・キャストはすべてこのワークショップ参加者から選びます。
 ストーリーについても、
 ワークショップで得られたアイディアと
 参加者から得られたインスピレーションをもとに、オリジナルで考えます。
 ワークショップ終了後、1週間以内に、
 おおよそのストーリー(プロット)を決め、
 ワークショップでいいなと思った参加者に出演交渉をさせていただきます。
 7月中にシナリオを書き終え、撮影は8月から9月に行う。
 そんな段取りで制作を進めたいと思っています。
 必ず作ります。

エントリー方法
【1】まずはメールにてエントリーして下さい。
 2016年7月14日からの4日間行われる
 「天野千尋監督による俳優のための実践的ワークショップ」
 参加希望の方は、メール本文に
(1)お名前(本名でも芸名でも構いません)
(2)ふりがな(お名前の読み方を平仮名でお書きください)
(3)性別
(4)生年月日(表記は1982/7/14のように年月日を/で区切り、西暦でお願いします)
(5)連絡先電話番号(すぐにつながる携帯番号をお願いします)
(6)所属事務所名、担当者名、担当者連絡先電話番号
(7)代表的な出演作品を5つ以内(無くてもかまいません)
(8)あなたがどんな人か自己紹介(ストーリー構築に利用させていただく場合があります)
(9)8月、9月のNG日があれば、いま分かってる分だけでもお教えください。
(0)参加希望クラス((1)昼クラス、(2)夜クラス、(3)参加できればどちらでもよい)
 をお書きのうえ、
 本人と分かる最近撮影の写真jpgファイルで1枚添付し
 メールのタイトルを「天野WS」として、ワークショップ事務局
  actorsvisionjapan@gmail.com
 までメールをお送りください。
※ 未成年者の参加は、保護者の許可が必要です。

【2】ワークショップ事務局から参加希望受理した旨、メールをお送りします。(受理)

【3】書類選考による合否および入金の案内をお知らせします。(書類審査)

【4】入金をしていただいた方から、正式エントリーとさせていただき、集合場所やテキストについての案内を送らせていただきます。(参加決定)

お問合せ
アクターズ・ヴィジョン
E-mail actorsvisionjapan@gmail.com