まつむらしんご監督インタビュー2018

2018年9月22日(土)から25日(火)までの4日間、「まつむらしんご監督による俳優のための実践的ワークショップ」が行われます。開催にあたり、講師であるまつむらしんご監督に緊急インタビューをしてきました。「ロマンス・ロード」「恋とさよならとハワイ」、そして来年撮影予定の新作と、ロマンス・コメディ三部作を製作中の、まつむら監督がどのような映画を目指し、どのような俳優との出会いを求めているか、以下読むとよくわかります。聞き手は、アクターズ・ヴィジョン代表・松枝佳紀(まつがえ・よしのり)です。


マツガエ:ツイッターでフォローしていただいて、監督の存在を知りまして、それで、発売されたばかりの「恋とさよならとハワイ」のDVDを購入させていただいて、すぐにみさせていただきました。

まつむら:ありがとうございます。

マツガエ:別れた男女が、別居もせずになんとなく同居を続けていて、でもそろそろ別居しようかとか、まだいいじゃないかとか、元鞘に戻るのか別れるのかという、言ってみればそれだけの話なんですが、人物たちのやり取りが緊迫するほど「本物」なので、面白く見続けることが出来ました。アクターズ・ヴィジョンとしては、これから出てくる若手監督で、俳優たちのリアルをちゃんと撮ることのできる方に、ぜひともワークショップの講師をしていただきたいと思っていたので、「恋とさよならとハワイ」を見て迷わずに連絡を取らさせていただきました。

まつむら:映画を気に入っていただいて嬉しいです。

マツガエ:監督ご自身として自分の映画の特徴は何だと思われていますか?

まつむら:いま松枝さんがおっしゃったように、僕の映画に描かれているものは、僕らの日常と同じで、特に大きな事件とかが起こるわけではなく、日常のやり取りのなかで行き詰まったりツマヅいたりみたいなことが起きてゆくんですが、その行き詰まりだったりツマヅキだったりをネガティブに描くのではなく、ユーモラスに描いていきたいと思っていて、そういう観点こそが、僕の映画の特徴なのかなと思います。ユーモアって、タクマシサだと思うんです。どんな人間でも生きていれば、良いことばかりじゃなくて、ひどい目にだって会うんですよ。それでも生きていくしかない。抵抗して、あらがって、もがくしかない。その必死に生きる姿が、愛しくも、おかしかったりする。それが尊い。そこを、愛情をもって描くのが僕の映画の特徴だと思っています。

マツガエ:ユーモラスって、他人の評価なんですよね。本人が「俺ってユーモラスだろ」と言うのはおかしい。真剣に何かに向き合ってる姿が、結果として他人から見ると、愛おしかったり、くすりと笑えたりする。それが、ユーモラスってことですよね。

マツムラ:まさにそうです。

マツガエ:本人にとっては悲劇でも、はた目から見ると喜劇である。それが本来的なコメディです。なのに、俳優たちの中には「コメディ」と聞くと、笑わせる演技をしようとする人が良くいる。でも、いま監督の言われたユーモラスな人間の姿を描くためには、俳優たちはそれを笑わせる演技でやっては駄目だと思うんです。結果として笑えるとしても、目指すべきはリアルな芝居なんだろうと思います。

まつむら:そう思います。なにより僕は映画を撮る時に必ず俳優たちに言うんです。「これから撮りたい映画はコメディです」「ユーモラスですよ」「笑えるような映画を作りたいんですよ」って。さらに「だからと言って、おかしなことをしてほしいわけではないんです」とも「本当にそこにキャラクターが生きていて、映画を見終わった後にも、映画の中の人物がきっとどこかにいるんだろうなと観客に感じてもらえるようにしたいんです」とも伝えます。「傍から見るとおかしいことが起きているだけで、人物たちがおかしなことをしているわけではないので、そこを履き違えないでください」とも。

マツガエ:やっぱりそこなんですね! そして監督が演出で、俳優たちに、笑わせるための変に意識した大きな芝居をさせずに、リアリズム演技を徹底させている。だから、まつむらしんご監督の映画は、すべての瞬間がリアルで、そしてどこかユーモラスなんですね。監督の映画がおもしろいわけが分かりました。

まつむら:映画を現実のことのように受け取ってもらうには、俳優たちの芝居がリアリズムに立脚していることが大事だと思っています。とは言うものの、登場人物を全員、日常的な静かな芝居の人たちで固めると、映画のパワーが無くなることもある。だから場合によっては、リアルではない、芝居の大げさな人もキャスティングしたりします。でもやはりメインどころはリアルな演技がやれる人を求めますけどね。

マツガエ:そう考えると、まつむらしんご監督の作品にとって、俳優がいかにリアルな演技を行うかと言うのが重要なことになってくると思います。実際、これまでの作品では、どのようにキャスティングを行われてきたんですか?

まつむら:まず長編1本目の「ロマンス・ロード」では、元々ずっと一緒に映画を作りたいと思っていた東京乾電池の俳優さんたちをメインにキャスティングしました。ご存知のように東京乾電池は、俳優の柄本明さんの劇団ですよね。柄本さんご自身がリアルでユーモラスな演技の大家です。だから、彼のもとに集まっている俳優たちは、超リアルで、しかもユーモラスな芝居、そこにあこがれて入ってきている。だから、僕の求めている芝居をもともと志向していた。

マツガエ:柄本明さんの舞台を何回か見たことあるんですが、あの人は驚くほどリアリズムなんですよね。セリフなのかアドリブなのか全くわからない。声も張らないし、自然にそこにいる。なのに、面白い。たしかに、柄本さんの周りに集まる人たちは、まつむらさんの作品が求めるものに答えてくれそうです。

まつむら:長編2本目の「恋とさよならとハワイ」は、予算のこともあって、どういう俳優さんたちに決めようかとなったときに、プロデューサーから、映像作品はあまり出たことないけど小劇場ではそこそこ名前が知れてる人を使ってやろうという提案があり、だから、キャスティングは、ほぼほぼ小劇場界に詳しい人にお願いしました。そのキャスティングの人が、僕が何をしたいかを理解してくれて、また俳優たちがどういう人なのかというのも良く把握してくれていて、ドンピシャでハマって、これでいいじゃんという感じで決まりました。

マツガエ:東京乾電池は、もともとリアリズムを志向しているから良いとして、しかし、ほとんどの小劇場演劇の人たちの芝居は、大げさな見せる演技であって、リアリズムとは異なるような気がしますが、そのあたりは大丈夫だったんでしょうか?というか映画を見る限りぜんぜん小劇場的な芝居はないので、それはどうされたんですか?キャスティング時点で、リアリズム演技のできる人を選んだんでしょうか?それとも、キャスティング後に、レッスンなどしたんでしょうか?

まつむら:「恋とさよならとハワイ」に関しては、選ぶときに資料で送られてきた映像が、すべて舞台の映像だったんですよね。だから、そこに映っているのは、当然、大げさな、舞台の演技でした。だから演技的には参考になるものではなかったんです。でも、その資料で決めるしかなかったので、そこから垣間見える俳優さんたちの「人間」とか「雰囲気」を察して、いけるかどうか判断したんです。ただ、やはり芝居自体は大きい人が多かったので、キャスティングが決まった人には、芝居を演劇的な芝居から映像芝居に切り替えるためのリハーサルをやりました。どうしても治らない人には映像を撮って見せて「あなたは今こんな大げさな顔して芝居していましたよ」と言うのを気付かせた。自分で気付かないとなかなか治せないですからね。でも、そのようなリハーサルの甲斐あってか、映画祭なんかでも「どうやってキャスティングしたんですか」というのをよく聞かれるほどに、俳優たちが良いと褒められたのは嬉しかったです。

マツガエ:見事に、みんながリアルでした。本当に、別れたカップルの日常をのぞき見しているようなリアルさでした。そこまで俳優たちを持っていった、まつむら監督が次回どのような作品を撮るのか楽しみです。次回はどのような作品を撮ろうと思っているのでしょうか?

まつむら:「ロマンス・ロード」「恋とさよならとハワイ」に続く、ロマンチック・コメディ三部作の最終章になります。おかげさまで前2作が評判良くて、3本目の今回はすこしだけ予算も大きくできそうです。また、当然、これまでにやらなかったことにも、いくつかチャレンジしようと思っています。撮影は来年を予定しています。まだ今は、脚本という形になった僕のイメージだけの状態ですので、これからキャストが決まってきたらそのイメージがどんどんリアルなものに深まって来ると思います。今回のワークショップでは、映画の世界観を広げ、より深めてくれる様な俳優さんたちに出会える事を楽しみにしています。

マツガエ:ワークショップに来る人にはどんなことを期待しますか?

まつむら:やっぱり、先ほども言ったように、最終的には本当にその人がそこで生きているというのを映像で撮りたいので、そういう演技ができる方々、あるいはそういうリアリズム演技を志したいと思っている方たちに来てほしいです。それから、ちゃんと感情を出す人がいいですね。人間って、社会性を身に付ける前は、ちゃんと感情的だったと思うんですよね。でも、大人になるにつれ、感情的に生きていたら、摩擦が多いし、生きづらいので、だんだんと感情を失っていくようになると思うんです。でも、そういう感情を失った人間でも、感情が無くなったわけではない。ある状態になると出すんです。映画とかは、そういう、無いようにしていた感情が出る瞬間を描くもののような気がするんです。だから、俳優さんたちには、身に着けた社会性を外して感情的になることをやってほしいなと思います。今回、そういうことをしないとできないような題材を選ぼうと思っています。

マツガエ:今回は、4日間もありますしね、4日間同じ俳優と付き合わないとできないような、深い気付きをもたらすようなワークショップにしたいと僕も思います。

まつむら:役者という仕事が難しいのは、やっぱり他人の書いた言葉を実感をもって言わないといけないということだと思うんですよね。俳優さんの中には、演技を自己表現だと思っている人が居るんですよね。自分の苦しみだったり、痛みだったり、喜びだったり、を表現することだと。でも僕は、本当の目的は他人を理解しようとすることだと思うんです。理解できるはずもない他人を理解しようとして、自分の中になかった痛みだったり苦しみだったり喜びを表現するというのが俳優の醍醐味だと思うんですよね。他人を理解するために、自分を総動員するのが俳優の、そしてわれわれ映画を作る人間の、しなきゃならない仕事だと思っていて、そのことを、俳優さんとともに試行錯誤しながら探る4日間に出来たらなと思っています。

(2018年8月10日、新宿三丁目にて)