早坂さんのtweetに対する返答

3/25早朝、早坂伸さんが次のようなtweetをされました。

「アクターズ・ヴィジョンによる榊英雄ワークショップが石川優実さんのブログ公表後の2/24-27にかけて開催された件について、「全く知らなかった」にせよ、参加者全員に被害がなかったか確認し報告する義務は最低限あると考えます。」
https://twitter.com/shin_hayasaka/status/1507041390467088384

「少なくとも、この部分(アクターズ・ヴィジョンの出した「榊英雄監督の報道について」に書かれている「報道にあったようなことを榊さんが起こしている可能性があることは全く知らず、このワークショップを企画してしまいました」という部分)は嘘です。ワークショップ開催前に某俳優から注意勧告のメールが行き「参加者に忠告します」と返事していることを確認しております。」

これについて、早坂さんの言われる「少なくともこの部分が嘘です」ということが間違いであることを、実際の経緯について釈明させていただきますとともに、今後の対応について報告させていただきます。

まず、榊さんと今回ワークショップを開催するに至った経緯は次のようです。

2021年11月3日、僕から榊さんに僕のプロデュースした新作映画の試写を見に来てもらえないかとLINEをしました。

2021年11月17日、新作映画の試写を榊さんが見に来てくれて絶賛してくれました。同じような形でワークショップをし映画を撮りたい旨を榊さんから言われました。もしワークショップが可能であるとすると2月である旨を伝えました。

2021年12月1日、榊さんから「2月ワークショップよろしくお願い申し上げます」というLINEをもらいました。2/24-27の四日間はどうかということを返信しました。

2021年12月25日、「蜜月」のオンライン試写会のURLをいただきました。即座に見て傑作であることを確信しました。また、榊さんが新境地に至ったものと思いこの人とワークショップができることの期待が増しました。

2021年12月29日、榊さんのインタビューをさせていただきました(このインタビューはワークショップに来る俳優たちに向け発信するものです)。「蜜月」に関する思い、これからの映画監督しての目標などをお伺いし、よいインタビューになったなと思いました。

2022年2月5日、ワークショップを告知しました。それとともにインタビューも公表しました。

2022年2月18日、榊監督から使用テキストの提案がありました。

2022年2月22日、集まった俳優たちの最新名簿が確定し、それを榊さんにお渡ししました。(この名簿は、俳優の連絡先は書いていません。俳優名と性別、年齢、所属事務所の書かれたものです)

2022年2月23日、ワークショップ前日、僕は次の日にやる課題の確認と、俳優たちの組み合わせ、そして順番を構想していました。21時23分、お世話になっている某氏から、あるブログを見てほしいとメールがありました。メールに気付いたときには深夜1時を回っていました。某氏のメールに従い、ブログに飛びました。「日本の映画界には地位関係性を利用した性行為の要求が当たり前にあったな、という話」と題された話は、非常に個人的な経験と思いの書かれた率直なもので、そこに彼女が「監督」と書いている人物が、榊さんであることがわかりました。そのblogが発端となり、文春が記事を書き、現在のような日本版MeToo運動が起こっているわけですが、そのとき僕が思ったのは、blogタイトルにもあるように、それはその監督を告発するというようなものとは感じませんでした。彼女自身がそのblog記事の最後に書いていますが、「私は今日、ずっと日本の芸能界や映画界で起こっていること事実をただ記録しておきたいと思いました。私はフェミニズム映画を、きちんとした労働環境で絶対に作ります。本じゃ届かない、被害に遭い続けている人たちがいるからです。今後クラウドファンディングなどで資金集めをしていくと思います。その際は、応援していただけたら嬉しいです。」とあるように、記録として、非常に勇気ある告白として、読みました。ちなみにその時には深夜でもあり判断が鈍っていたのか、このブログ記事を書いた人があの石川優実さんであること認識していませんでした。石川さんだと認識していたら僕の判断が変わったのかわかりませんが、このブログ記事を見て、もう数時間後に行われるワークショップを中止するという判断ができたでしょうか?石川さんの言ったことを信じていないわけではないです。あれは彼女からの風景として真実だと思えます。しかし、彼女は率直に迷いも表明されています。つまり同意があったものなのかそうでないのか、結果として同意があったとしても地位関係がある場合のそれは限りなくアウトなんじゃないか、しかし、現在の日本においてそれはアウトになっていない、のでそれを告発しようとは思わない、けど事実としてあったことは記しておく、そして過去のことは過去のこととしてこれからのそういう悲劇を生み出さないための行動をとっていきますという宣言であったと思うのです。そして僕はその宣言に同意します。が、あの時点でワークショップをやめる判断はできなかった。少なくとも、僕の前では榊英雄は立派な監督で、立派な映画を撮っており、尊敬できる人物でした。未来に対する希望も話されていていたし、ご家族のことも知っていたし、そのマイホームパパの一面を知っている僕としては、にわかに「一個人のブログの内容をもってして」(注)、数時間後に開催されるワークショップを止めるという判断には到達できなかった。そして、榊さんに気を付けるように忠告のメールを送ってくれた某氏には「ご忠告ありがとうございます。十分気を付けます。またみなにも注意を喚起します。ご忠告ありがとうございます。」とメールを返しました。2月24日2時16分、ワークショップ当日の朝でした。

ワークショップは4日間続きました。参加俳優たちに注意喚起のメールをどうかこうか迷いました。授業の最初に冗談で「榊さんとは私的連絡をしないように」と言おうか迷ったり。しかし、ワークショップ中、僕が榊さんに張り付いて、俳優とのプライベートな接触をしないようにすればいいと思ったし、実際、指導する榊さんの言っていることはまともで、学びの場としては悪くなかったし、コロナ状況もあり、打ち上げも行われなかった。また、榊さん自身、いろいろなことが炎上して危機的状況であることをワークショップ終盤、僕に告白してきました。だからいまこの人はそれどころじゃない。そう思って注意喚起のタイミングを逃している中、2022年3月9日、週刊文春に榊さんの記事が出ました。石川優実さんだけではなく、僕が想像していたよりかなりひどい内容でした。

2022年3月11日「榊英雄監督の報道について」と題する文面をHPに掲載するとともに、参加俳優たちにメーリングリストで送りました。現実に追い抜かれ後手後手になりましたがこれがみんなに対する注意喚起となってしまいました。

以上が経緯です。

ので、早坂伸さんのtweetの部分、「少なくとも、この部分は嘘です。」と書かれているところは誤解だと指摘させていただきたいと思います。そして問題なければ当該tweetを削除するか、「嘘です」と断定したことは間違いだったとの新tweetをしていただければ嬉しいです。現在の日本版MeToo運動において僕は早坂さんの姿勢を支持しますし、早坂さんの発言の意味は重みがあると思うので、もう少しだけ慎重な言い方をしていただけたらと思っています。

ただ、「全く知らなかった」にせよ、参加者全員に被害がなかったか確認し報告する義務は最低限あると考えます。」という指摘については、早坂さんの言うとおりだなと思うので、遅くに失したかもしれませんが、いまから、参加者全員に被害が無かったかを確認し、その結果を報告させていただきたいなと思います。

(注)「一個人のブログの内容をもってして」と書きました。このように書くと「あなたは石川優実さんの告発を信用ならないものだというのですか?」というふうに言われるかもしれません。逆で、僕はこれまでの石川さんの活動を支持してますし、ブログからも慎重で率直な姿勢を感じられるので彼女が嘘を言っているなんて言うことはみじんも思っていません。しかしながら、僕がどう思うかは別にして、日本は法治国家です。憲法第三十一条にあるように「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」のが法治国家です。私人の判断や、うわさや、報道で、たとえほぼほぼ悪いやつだとわかっていても、罪刑を判断することには慎重でなければならないと僕は思っていますし、そう習ってきました。どのような刑罰も、最終的な断罪は法律に基づき裁判などの手続きを経て罪刑を確定し執行機関が執行することをせねばならないと僕は思っています。いま、MeToo運動でTwitterで断罪が続いています。これは、彼女たちの被害を法律や裁判所や公的機関が守り切れていない、あるいは公的機関の判断行動が遅すぎるために、やむを得ずに、勇気ある人だけが顔を出してTwitterで断罪し、そのことによって世間を動かすことによって、何かを変えていかなければならないと思っている、思わせてしまっているからだと思います。顔出しという危険を冒しても彼女たちにそのようなことを行わなければ世界は動かないと思わせたのは、僕は立法府行政府司法の怠慢、つまり国家の怠慢が原因だと思います。勇気がある人だけではなくて勇気がない人も告発し身を守ることができる世界にしなければならないし、そういう被害者を迅速に守る法律や機関の設立、加害者を迅速に罰する法律や機関があれば、いまのTwitterで告発し、誰かを断罪するという、いわば憲法三十一条に反する私刑が行われる必要は無いと考えます。いまはこれでいいです。少なくとも動かなかったはずの世界が動き始めた。ただこのままではいけない。仮に誰かが悪いやつだとしてそいつに何をさせるのが罰として妥当だと一個人が決められますか?決められるわけがない。なぜ我々が法治国家を作り、判断が遅かろうと法治国家というシステムを守ってきたかという観点に立ち返り、現在その国家が機能していない結果として起こっているMeToo運動を、告発者の安全を守り、続く被害を防止するために迅速に加害者を拘束するなり処罰する体制を作って行くべきだと思っています。

2022年3月25日
アクターズ・ヴィジョン
代表 松枝佳紀