ご説明とお詫び

アクターズ・ヴィジョン代表、松枝佳紀です。
長らくの沈黙、申し訳ありません。
以下、アクターズ・ヴィジョン主催の俳優ワークショップに関して問題とされているいくつかの点についてご説明させていただき、あわせてお詫びをさせていただきたいと思います。

(1) 講師となる映画監督達が過去に行った性暴力に関与したのかどうかについて

私、松枝佳紀としましては「才能ある無名新人俳優たちが世に出ることを支援したい」「機会に恵まれていない中堅俳優たちの自己実現を応援したい」という思いで、これまで幾多の俳優ワークショップを運営してまいりました。

長年、俳優たちのためのワークショップを運営し、たくさんの俳優たちと出会い、彼らの希望と絶望を共にしてきたことにより、そのような思いを持つようになったのだと思います。

ですから、俳優を第一に考えようと努めて参りました。ですので、俳優たちを「性的な対象」として講師である映画監督がたに紹介するようなことは決してございません。

とは言うものの、誰かと誰かをつなげることが、こちらの思いとは違う部分で人間同士をつなげてしまうことがあり、その可能性について、配慮が足りなかったのではないかと、いまは感じています。とくに「地位・関係性を利用した性加害」という概念があることを知るに至り、そのような観点をもって、担当講師や参加俳優に対して、予防措置・注意喚起をしてこなかったこと、とくに講師に対して強く注意をしてこなかったことを、深く反省いたしております。

そして、そのような講師に対する対応が原因となり、話題となっているような問題が当方主催の俳優ワークショップにおいて起こっていた可能性もあると考え、実際被害が起きたのかどうかの調査をいたしました。とくに報道などで名前の挙がっている映画監督がたに講師をお願いした三回のワークショップに参加した俳優たち総勢218名にアンケート調査を行いました。

しかし、内部調査の問題(回答者のプライバシーや身の安全が守られない)も感じておりましたので、調査に関しては、東京合同法律事務所の馬奈木厳太郎弁護士にお願いを致しました。ご存じの方もおられると思いますが、馬奈木弁護士は演劇界や映画界のセクハラ・パワハラ問題にも先進的に取り組んでおられる弁護士です。

まず、アンケート調査に先立ち、アンケート回答者のプライバシーと身の安全を守るために、当社と馬奈木弁護士との間で次のような契約を結びました。

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本調査において、ワークショップに参加した俳優たちと直接連絡を取る者は馬奈木弁護士であり、調査の結果得られた情報に関するアクターズ・ヴィジョンへの報告は概要のみを伝え、誰がどのような告発をしたかなど個人が特定できるような情報は開示しない。

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このような事前契約を結んだことを218名の参加者に表明したうえで、馬奈木弁護士のほうから三つのワークショップに参加した全員に直接アンケート調査を行っていただきました。

調査の結果としましては「当方のワークショップをきっかけとした性被害は無かった」との報告を受けています。とはいえ、未回答者がおられたとのことですので本当に被害が無かったのかどうかの決定的な判断はできないというのが正直なところのようです。また、当方のワークショップをきっかけとしたものではないのですが「過去になんらかの性被害にあったことがある」と報告された方も数人おられたとのことですので、そういう意味では、日本の芸能界においては依然として立場の弱い俳優たちが身を危険にさらされているというのは拭えない事実であろうと思います。そのことを考えると当方が「地位・関係性を利用した性加害」に関する予防措置・注意喚起を、これまでの俳優ワークショップの運営においてしてこなかったことは、あらためて重大な問題だと感じております。

当方としましては、このことを深く反省し、不安を与えた俳優の皆様に心からお詫びを申し上げるとともに、今後、俳優ワークショップなどを実施する場合には、俳優の安全を第一に考えた「対策」を行ったうえで、俳優にとって本当に必要な学びの場を提供するべく弛まぬ改善努力していくことを誓います。さらに、当方のワークショップにおける被害でないとしても過去被害に会われた方々のケアに尽力するとともに、これ以上の被害が起きないように、関係各所、同業他社と協力し防止策の連携などをさぐり、運営側が行うべき対策についての勉強会や、運営側の意識のアップデートのための勉強会などを行ってまいりたいと考えております。

「対策」に関しましては、馬奈木弁護士と相談のうえ、現在、策定中ですので、近日中に発表いたします。→2022年7月8日に「対策」を発表しました。「2022年7月以降開催のアクターズ・ヴィジョンにおける俳優ワークショップの運営方針」

(2)俳優教育者でもない映画監督が俳優ワークショップの講師をする理由について

そもそも映画監督は「作品の様々な演出を担う」のであって、「俳優の演技を指導すること」をその職能としていません。ですから、俳優ワークショップの講師を映画監督が担当とすることに関して「映画監督に演技が教えられるのだろうか?」との疑問が提出されています。

しかしながら、それでもなお「当方主催の俳優ワークショップ」においては、講師を「映画監督」に依頼する必然性があると考えています。

それは「当方主催の俳優ワークショップ」が、「俳優に演技を教える場」ではなく、「俳優たちが「憧れの映画を作っている映画監督の現場」で「自らの技量がどれほど通用するか」を試す場」であるからです。したがって、当方主催の俳優ワークショップの担当講師は必然的に「俳優たちにとって憧れとなる映画を作っている映画監督」でなければなりません。

そのような人気の映画監督に「疑似現場」を作っていただき、現場同様の真剣な俳優演出を行っていただくことを通じて、参加俳優たちに、その憧れの監督が「どのような俳優を求めているのか」「どのような演技を求めているのか」「その監督の現場で自らの培ってきた演技スキルがどれほど通用するのか」を知ってもらう。それが、当方主催の俳優ワークショップの主たる目的です。

「現場経験が無い俳優」にとって、また現場経験があったとしても「主演級の受ける綿密な演出指示を受けたことがない俳優」にとって、「映画監督」を講師とする俳優ワークショップは、貴重な機会を提供できていたと自負をしており、現在も再開を期待する多数の声をいただいております。

今後に関しましては、立場の弱い俳優を護るための「対策」を採用したうえで、俳優たちにとって必要な場所を考案し提供し続けていきたいと考えています。

(3)ワークショップ参加費について

まず、当方主催の俳優ワークショップは、1日おおよそ3時間から5時間を1コマとして、休憩を挟みつつ、講師である監督ご自身の実際の現場同様の緊張感を持った場をつくり、俳優たちに現場同様の演出つけていただきます(監督によってそれぞれのやり方がありますので、そうではない場合もあります)。それを通常は4日間行います。「監督の要望を受けてどれほど演技プランの変更をできるか」など参加俳優の対応力・可能性を見極めるためにも、ワークショップ開催日は、日々のリセットを含めた複数日に渡る必要があると考えています。

通常参加費は1日あたり5,000円から10,000円を徴収しています。最も標準的な場合では4日間の参加で30,000円をいただいております。1日あたり7,500円の換算になります。同業他社と比較して高いほうに入るとは思いますが、講師のレベルやワークショップ内容などを考えるとそこまでひどく乖離している価格であるとは思っていません。

とは言え、2万円~4万円/月が俳優志望の若者にとって、たやすく出せる金額であると思っているわけではありません。ですので、できるだけ多くの俳優たちに利用してもらうためにも、現在の価格付けに固執することなく、低価格で良質な演技訓練の場を提供するための努力は今後も続けてまいりたいと考えております。

(4)有料オーディションなのかどうかについて

「当方主催の俳優ワークショップ」は、「俳優に演技を教える場」ではなく、「俳優たちが「憧れの映画を作っている映画監督の現場」で「自らの技量がどれほど通用するか」を試す場」であると申し上げました。そして、そのような場を築くために「第一線で活躍している映画監督」を講師に迎えております。その結果、参加俳優たちの中から何名かが、講師である映画監督の映画やテレビドラマにキャスティングされる事態が生じております。

当方主催の俳優ワークショップをきっかけとして、参加俳優たちの活躍する場が増えたとするならば大変うれしいことです。しかし、それは、監督が参加俳優の演技に感銘を受けた結果起こることであって、当方はその決定に関与していませんし、キャスティングを決めるために当方から製作側に謝礼を支払うこともありませんし、キャスティングが決まった結果の謝礼を参加俳優や所属事務所などから受け取ることもありません。

当方主催の俳優ワークショップは、あくまでも、現場経験の少ない無名新人俳優や中堅俳優が疑似現場を経験し、己の実力を試すという目的のために行われています。

(5)ワークショップ内におけるその他ハラスメントについて

「総勢218名に行ったアンケート調査」において、その他のハラスメントについても指摘があったことを馬奈木弁護士から報告受けております。

パワー・ハラスメントに関しては、
・精神的に圧迫されるような指導をされた
・暴力的な言動があった
・そのような講師の発言に対して主催者が容認をしていた

また、セクシュアル・ハラスメントに関しては、
・俳優の演技力と性体験の有無を結び付けた言動があった
・そのような講師の発言に対して主催者が容認をしていた
との指摘がありました。

あわせて、主催者である松枝の言動についても指摘がありました。参加者やスタッフに対して圧迫するような言動があったとの指摘のほか、動きを伴う講習の際の身体的な安全確保が充分ではなかったかのではないかとの指摘もありました。

これらの指摘を受けて当方が思いますことは、「現場経験の少ない」俳優たちに「疑似現場体験」となる緊張感のあるワークショップを創造しようとしたあまりに「厳しさ」を追求しすぎた面があったのではないかということです。そして、そのことによって、良い経験ができたと喜んだ俳優たちの声ばかりに耳を傾け、傷ついた俳優たちが居たことに対する配慮が欠けていたことを深く反省をしております。また演技指導内において、性的な比喩などを使用した指導が行われたりすることも実際ありました。それを監督の個性と考え、許容し放置したことを深く反省いたしております。

未来ある俳優たち、参加者たちの味方であるはずの当方が、参加者に不快な思いをさせたことは誠に遺憾であり申し訳なく思っております。

そのような言動を行い、またそれを容認した背景には、当方に「過去の、憧れの映画人・演劇人の粗野な言動を逸話として聞き及んだ経験があり、それらを酷いことではなくて、映画や演技を愛するがゆえの格好良い言動である」と感じていた事実があり、「粗野な言動であったり、非常識な言動を取ることを、格好良いことであり、良い作品を作ろうとする情熱の証でさえある」と考える歪みがあったことを自覚します。しかしながら、尊崇するクリント・イーストウッド監督の現場などにおいては、怒号や罵倒など一切なく素晴らしい作品が作られていることを知るに至り、そのような方法に転換すべきであると考えるに至りました。

いま、被害者たちの告発が、日本映画界、日本演劇界の、悪しき慣習を改変する歴史的な流れを生み出しています。これは変わるためのチャンスであると考えます。当方もこのようなことが無ければ、対応の見直しを行うことも無かったと思います。現在の悪しき習慣を改善する流れを歓迎し、性被害を無くし、あらゆるハラスメントを無くし、ハラスメントを生み出す土壌を変えていくこと、そのためにできることをしたいと考えています。そして、立場の弱い俳優たちの安全を保証したうえで、俳優たちが必要とすることを、これからの日本映画界を担う存在になってもらうための様々なことを、臨機応変に提供できる場所を、これからも運営してゆきたいと考えています。当方の改善と行動を信じていただき、応援していただければ、これに勝る喜びはありません。

2022年7月4日
アクターズ・ヴィジョン株式会社
代表 松枝佳紀